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いるま野アグリの取り組み

いるま野アグリは、地域農業の振興と持続的な農業の発展のため、農業支援、優良農地の維持、多様な担い手の育成と規模拡大農家への支援を目的に事業を展開しています。
今月号の特集では、JA100%出資の子会社である同社の事業について紹介します。

株式会社いるま野アグリ 会社概要

□所在地 富士見市みどり野北76  TEL / 049-254-3119
□ホームページ https://www.ja-irumano.or.jp/irumanoagri/
□設立年月日 2006年11月27日
□資本金 5,110万円
□代表取締役社長 諸口 栄治
□代表取締役専務 大野 美智明
□従業員 14名
(JAより出向3名、正社員7名、契約社員1名、パート3名)
□資本装備 大型硬化ハウス2棟、育苗ハウス12棟、農業用機械器具庫2棟、田植え機4台、コンバイン5台、管理機(乗用3台)、トラクター6台、フォークリフト、播種機(大豆、小麦用2台、水稲用1台、野菜用1台)、草刈り機(トラクター用スライドモア1台、歩行用ほか)

設立とその背景

管内の農業は従事者の高齢化と兼業化が進み、担い手不足による遊休農地の拡大が深刻な問題となっています。このような状況の中、JAの役割として水田・畑作・中山間地域農業の継続的発展のため、2006年11月に農用地の維持管理および農業経営を目的としたJA出資型農業法人、いるま野アグリが設立されます。

設立当初は、07年より導入された品目横断的経営安定対策(※1)に対応し、条件を満たすことのできない小規模麦作農家への補助金の受け皿組織として役割を果たしました。その後、当時JAが東部システムセンター(現在のいるま野アグリの場所)で行なっていた苗の生産を業務受託。また08年には、別の農作業受託組織から農作業受託事業が移管されます。さらに10年6月には、補助金の要件が変更になったことから、設立時の出資農家の株を買い取り、JA100%出資の一般株式会社として新たなスタートを切り、現在に至ります。

同社の事業は、大きく3つに分けられます。
①農作業の受委託事業
②農作物の生産・販売事業
③苗の生産・販売事業
この他、新規就農希望者の研修を行い地域農業の担い手を育成。JAグループをはじめとした農業関連団体の職場研修や視察の受け入れ、圃場実験なども行い、農業技術の向上に努めています。

(※1)品目横断的経営安定対策:政府が07年度に始めた国際競争力の強化を目的にした政策。 集落営農の組織化を加速させた反面、小規模農家が支援を受けられなくなった。

遊休農地の解消に寄与する作業受委託と生産・販売

このうち、設立時の目的達成に向けた事業が「①農作業の受委託事業」です。遊休農地解消のため、組合員から農作業の全作業および一部作業を受託し、農地の維持・管理を行ないます。また、同社のほか管内に9つある農作業受託組織や認定農業者らとも連携し、農作業の受委託作業も行なっています。

また、「②農作物の生産・販売事業」については、同社で農地の保有は行なわず、農地中間管理機構(農地集積バンク)(※2)を活用した借地で農作物を生産しています。作物別に見ると(表1)、水稲・小麦・ 大豆を中心に、近年ではネギやニンニクなど新たな農作物の生産にも取り組んでいます。

(※2)農地中間管理(農地集積バンク):農業者に対して農地の集積を促す組織。各県の同機構 が農業者から農地を一時的に借りて集約し、農業者に貸し付ける。いるま野アグリでは 富士見市を中心に、川越市、日高市など約15㌶を活用し、二毛作を実施している。

  • 5日間ほど浸種した種子に鉄粉と焼石膏を混ぜ合わせ、シートに広げ酸化を促します。

  • 1週間ほどで完成した種子は、発芽テストを経て圃場に直播します。発芽率は一般的な苗とほぼ変わりません。

それでは、同社が農作物別にどのように取り組んでいるのかクローズアップしてみます。

《水稲》

同社のある富士見市は、JA管内でも有数の米どころ。いるま野アグリでは、JAいるま野南畑米生産組合と連携、協力し、農作業の省力化や低コスト化につながる栽培技術の確立や普及に努めています。

まず、そのひとつが「密播疎植」栽培です。密播疎植は、苗箱1箱あたりの種の量を増やす「密植」と、田植え時に苗の植え付け株数を少なくし、株間を広げる「疎植」を組み合わせた技術。苗箱数や労力を減らすと同時に、倒伏に強い茎の生育が期待できます。

もうひとつが、16年から取り組んでいる水稲種子の「鉄コーティング」作業です。鉄コーティングした種子は、田んぼに直接播くことが可能です。育苗作業が不要で設備や資材費を削減できるとともに、苗の運搬も不要。 さらに肥料や除草剤、殺虫殺菌剤の散布も同時にできる栽培技術です。

また、今年度は多収性品種「ちほみのり」の栽培にも取り組んでおり、さらなる遊休農地対策につなげる考えです。

《小麦》

同社が生産している品種は「ハナマンテン」。JAが国産小麦の主要品種として行政やJA全農などと協力し、09年から本格導入している品種で、県内ではJA管内を中心に生産されています。

中でも同社が生産したハナマンテンは、品質と収量性から2年(16年産、17年産)続けて1等Aランクの評価を受け、埼玉県麦作共励会表彰式で優秀賞を受賞したブランド麦です。

また、パンや麺に加工すると、豊かな風味とモチモチとした食感が楽しめます。JA管内でも多くのパン屋さんなどが取り扱っています。

《大豆》

水稲、小麦に続く主要作物が「大豆」です。15年から産地交付金を受け、大豆の生産に注力。川越市をはじめ富士見市、所沢市、日高市で生産され、水稲、小麦とともに作付面積も年々増加しています。それに伴い、18年には新たに乾燥機と選別機を導入。自社で乾燥調整も行なっています。

品種は主に「里のほほえみ」。収穫した大豆はJAに出荷し、加工会社などに販売。しょうゆやみそ、豆腐などに加工されています。

  • 黄金色に輝く「ハナマンテン」はまもなく収穫期。収穫後の圃場は、むさしの26号」(米粉用米)の田植え作業を行います。

  • 19年産の大豆の種播きは6月下旬頃スタート。10月下旬から11月上旬に刈り取りを迎えます。

  • ネギの栽培にも取り組んでおり、新たな主要農作物の生産を模索しています。

多品目で良質な水稲・野菜苗

そして、もうひとつの主要事業が、苗の生産・販売です。同社では、大型硬化ハウス2棟と育苗ハウス12棟 を所有。ここで、水稲苗と年2回野菜苗の生産を行なっています。

ここ数年、水稲苗は約3万枚以上の水準を保っていますが、野菜苗については年々大きく増加(表2・3)。受注件数も500件を超え、需要が高まっています。

そこで、同社では生産体制を強化。組合員からの「もっと多くの品種・品目を」という声に応え、今年3月末までに出荷した春夏野菜苗は、10品目、28品種分を供給するまでになりました。もちろん、品質の向上にも力を入れており、知識と経験を重ねたスタッフが日々研鑽に努めています。

省力化に向けた新たな取り組み

同社では農作業の省力化に向けて、田畑での実証実験を行なっています。昨年6月には、無線操縦ボートを使った水田除草の実験を行いました。

全長約90㌢の小型ボートに顆粒タイプの除草剤を装備。最高時速30㌔でおよそ1㌶の水田を走り回り、通常30分ほどかかる作業を5分ほどで終了。その後の検証では、除草効果も十分に発揮することが分かりました。

今年度は農業用ドローン(小型無人飛行機)を使った実験や、遠隔操作が可能な水田の水管理システムの設置などを行なう予定です。

  • ハウスで育苗中の野菜苗。水稲苗を合わせ、年間約45,000枚を出荷します。

法人のメリットを活かし、さらなる規模拡大を目指す

これまで当社は、農用地の継続的な維持・管理を目的とした「担い手支援団体」として歩んで参りました。具体的には、法人組織として経営状態を〝見える化〞し、法人のメリットを活かした設備投資、労働力の確保、農業技術の向上、専門性の追求を行なってきたところです。

就農者の高齢化や後継者不足による遊休農地の増加は、JA管内でも深刻な問題です。地域の「人と農地」の問題に対しては、組合員の皆さまと交流を図ることで、担い手支援の一助に繫がればと考えております。

今後は、農地中間管理機構とも連携し、富士見市を中心に他の行政にもエリアを広げ、さらなる経営規模の拡大を目指していきます。当社スタッフの平均年齢は34歳。この若さを活かし、5年、10年先を見据えこれまで以上に積極的に事業に取り組むとともに、JA100%出資の子会社として、地域の包括的な役割も果たしていく所存です。

代表取締役専務
大野 美智明