いるま地域明日の農業担い手育成塾の卒業生の今を辿る

令和5年度卒業 越生町
寺田 篤哉さん(35歳)
ミツバチの力で地域を元気に!
梅の里「越生町」で奮闘する養蜂家
ミツバチに魅了されて早15年
「健康」と「美味しさ」を兼ね備えたミツバチの魅力
自然に囲まれた豊かな町で、耳を澄ませてみると…「ブーン…」。聴こえてきたこの羽音は、ミツバチたちが一生懸命活動している証です。越生町で養蜂を営む寺田篤哉さんは、就農して2年目を迎える若手農業者。現在、年間を通して15カ所に巣箱を設置し、100群前後のセイヨウミツバチを飼育。また、越生町の先輩農家から受け継ぎ、梅の成木林を約20アール管理・栽培しており、約1トンを出荷しています。そんな寺田さんがミツバチに魅了されたきっかけに迫ります。
寺田さんは中学校卒業後に山梨学院高等学校・山梨学院大学へスポーツ推薦で進学し、駅伝部に所属。そこで駅伝部メンバーのかかりつけ医である先生が養蜂を行っていたことが、寺田さんに大きな影響を与えます。「初めは治療のために先生の元へ通うだけだったのですが、その治療の中で『蜂針療法』という民間療法に出会いました。患部にミツバチの針を刺すことで、膝の痛みが消えたんです。そこから私は蜂の世界にのめり込むようになりました。また、治療だけでなく、段々と先生の養蜂の手伝いをするようになりまして。気づいたら大学4年間で手伝ううちに養蜂の専門知識が備わっていました」。「そうしてミツバチと関わっていくうちに『はちみつが採れるだけでなく、医療現場でも活躍しているマルチ性』に感動し、『養蜂を一生の仕事にしたい』という想いが芽生えました」と笑顔を見せます。
大学卒業後は福島県の養蜂場で技術を磨いた後、養蜂のプロジェクトに参加するために、青年海外協力隊としてモザンビークで養蜂の技術指導をするなど、精力的に活動。しかし帰国後にマラリアを発症し、生死を彷徨うことに。寺田さんは「医者からもこの状態で生きていることは奇跡に近いと言われました。両親にも心配をかけたので、恩返しの為にも地元である埼玉で仕事をしようと決めました」と振り返ります。
寺田さん(右)と指導農業士の山口さん。ミツバチと梅は最高のパートナーです。
人生に訪れた転機
入塾先で出会った指導農業士
その後、独立のため2020年に農業大学校へ通い、2022年にいるま地域明日の農業担い手育成塾に入塾します。そこで寺田さんにとって大きな転機となる、指導農業士の山口由美さんとの出会いがありました。山口さんは越生町の梅農家。梅と言えば「受粉」が重要になってきますが、その受粉を助長するのがまさに「ミツバチ」です。二人はすぐに意気投合し、寺田さんは山口さんの元で修業することに。そんな寺田さんに塾生時代のエピソードを伺うと…。
「いるま地域明日の農業担い手育成塾では、山口さんに大変お世話になりました。ミツバチが梅にとって非常に大きな存在であることや、梅の栽培管理などを教えてもらうことで、どのタイミングでミツバチを必要とするのか・巣箱を設置するのかなどを教わることができました」と語ります。「他には入塾したことで作業日誌を書く習慣が身に付きました。そのお陰で、年間の流れが掴みやすくなり、作業スケジュールを効率的に立てられるようになりましたし、農家同士の交流も増え、今でも相談や世間話をする仲間もできたので良かったです」と話します。
両親の近くで働きたいと思い、埼玉県での活動を決めた寺田さん。拠点を越生町に決めたきっかけとは…。
「越生町で養蜂を始めることを決めたのも、山口さんが居たからです。山口さんの梅に対する熱い気持ちや行動力には、心を動かされました。自分もミツバチに対する想いは誰にも負けないくらい強いと自負しているので、山口さんの居る越生町で養蜂ができれば、さらに楽しい活動ができるのではと期待を抱きました」。「今では、私を温かく受け入れてくださった越生町の皆さんに恩返しをする気持ちで、一生懸命ミツバチたちと活動しています」と笑顔をみせます。
巣箱内の状態を確認。寺田さんは素手で作業を行うので、ミツバチたちに与える振動を最小限に抑えています。
若手農家として地域を盛り上げるためこだわりの越生産はちみつを全国へ
いるま地域明日の農業担い手育成塾で、人生に大きな転機をもたらす出会いをした寺田さん。今後の展望を伺うと…。
「自然豊かな越生町の強みを最大限に活かすため、花の種類や季節による味わいの変化を楽しむことができるよう、無添加・無加工にこだわったはちみつを作っています。ありがたいことに、2025年8月にはふるさと納税の返礼品として採用していただいたり、「第44回埼玉県はちみつ品評会」において単花部門で最高位の名誉賞を受賞することが出来ました。これからは、仲間と切磋琢磨し合い、ベテラン農家の方の技術をより吸収して成長し続けながら、越生町の梅と、梅の大切なパートナーであるミツバチのはちみつも越生で採れることを広く伝えるべく、『ミツバチの力で地域を元気に』をモットーに情報発信をしていきます!」そう意気込む寺田さんの笑顔は輝いていました。
太陽の光に照らされキラキラと輝くはちみつ。「山桜」「百花蜜」「あかしあ」「ゆず」「山栗」の5種類。寺田養蜂園のオンラインショップやJAいるま野越生農産物直売所などでご用意しています。
梅の花の受粉をお手伝い。よく見ると足に黄色い花粉団子が!
寺田養蜂園のサイトはコチラ!
※外部サイトが開きます
いるま地域明日の農業担い手育成塾とは…?
県南西部の13市町とJAが連携して開設している新規就農希望者への支援制度のこと。農業の自立経営を目指す方に対して、研修農場での実践研修を通し、就農にあたっての知識や技術、経営感覚を養い、円滑かつ安定的な農業経営に結びつけることを目的としています。
市町村やJAなど関係機関が一体となって就農までのサポートを行います。

平成27年度卒業 所沢市
佐藤 勇介さん(36歳)
生まれ育った所沢市でゼロからのスタート、
日々の仕事に全力で取り組む若手農業者
非農家家庭から農業の道へ
きっかけはバックパッカーとアルバイト
酷暑が過ぎ去り、草花も秋の装いを見せ始める中、所沢市で仲間と共に農業に励むのは、若手農業者で今回の主人公、佐藤勇介さんです。現在は就農して9年目。農業法人「所沢ゼロファーム」を営み、年間約40ヘクタールの面積でエダマメやネギ、ニンジンなど季節野菜9品目を栽培しています。栽培した農作物はJAの共販出荷や量販店の集荷施設、仲卸などに納められ、全国の消費者のもとに届けられています。
元々農業とは縁遠いサラリーマン家庭で育ったという佐藤さん。社会科の教師を目指して大学に進学しましたが、就職氷河期時代で就活に悩む知人を見たことで卒業後にそのまま教師になることに疑問を抱き、大学を休学しバックパッカーとして2年間アジア各国や様々な地域を巡ったといいます。その過程の中で途上国での食の実情について目の当たりにしたこと、そして復学後に実家が農家の中学時代の同級生のもとでアルバイトをして「青空の下で農業をするのは楽しい!」と農業の魅力に気付いたことで就農を決意しました。
愛車のトラクターたち。農作業を支える大切な存在です!
歩み始めた第一歩
農業塾で大切なのは「関わりを持つこと」
大学卒業後、本格的に農家への道を歩むべく農業大学校に入学した佐藤さん。1年間のコースを受け、その後は農家資格を得るべくJAや行政などによる新規就農支援事業「いるま地域明日の農業担い手育成塾」に入塾し、指導農家のもとで2年間研修を受けました。研修当時の思い出を振り返ってみると様々な苦労があったと話します。「研修といっても土地を借りて自分自身で栽培を行うので、実質独立しているようなものでした。当時心掛けていたことは『自分から積極的に関わりを持つこと』です。指導農家の方もJAも自分からヤル気をもって接していけば、熱意が伝わり必ずそれに応えてくれます。他にも農業塾からの助成金など使えるものは何でも使っていく。当時は本当にがむしゃらでしたね」。「また、指導農家の方と関係性を構築し、エダマメの
農業塾を卒業後は親族や近隣農家などから約70アールの農地を借り、中学時代の同級生と共に独立。しかし、そんな佐藤さんを待ち構えていたのは新たな課題でした。
主力品種のエダマメ。所沢ゼロファームのエダマメは味の濃さが特長です。
失敗からの学び
そして達成した売上2億円超え
就農当初は約20品目の露地野菜を栽培し、自ら量販店などへ販路開拓を行っていた佐藤さん。しかし、初年度の売上は約500万円。経費などを差し引くと殆ど手元には残らなかったといいます。そこで2年目は売上目標を1000万円に設定し、「1日3万円を売り上げるには、何をいくつ作れば良いのか」を考え、袋詰めにしたラディッシュを100円で販売し、見事目標を達成。その後は、生産性と出荷率の良い農産物を選択と集中し、規模を拡大しながら順調に売上を伸ばしていましたが、売上が4000万円台に達したときに、再び壁に当たりました。
「規模を拡大したのは良いものの生産人数は2人のまま。生産効率が悪くなった結果、秀品率が下がり利益率も低迷しました」。そこで状況打開のために、県内外の農家のもとを視察し、学んだことは「土づくりの重要性」だと話します。「茨城県の農家のもとで学んだ土づくりは一つの転機だったと思います。秀品率が高ければ袋数も多くなり、一つの袋詰めにかかる時間も減るため人件費の削減にも繋がる。生産する側が出荷調整作業を意識する必要があったことに気付けたのは大きかったですね」。こうして秀品率が改善したことで、売上が再び向上した所沢ゼロファーム。現在はパートなどを合わせて約20人以上を
若手農業者の新たな目標
目指すのはAIを用いた効率化と地域の振興
「所沢の農業をひっくり返す」をモットーに掲げる所沢ゼロファーム。そんな佐藤さんに今後の目標を訊ねてみました。
「今後の目標は生成AIを用いて日々のデータを収集し、自社独自の栽培暦を作ることです。既に一部の作物ではデータを取り始めており、この精度を高め、社員の週間スケジュールを確立し働きやすい環境を整えることで、更なる効率化と農作物の安定供給を目指していきたいと考えています。また、所沢市は都市近郊に位置していることが利点です。この利点を活かし、大規模都市近郊農業を確立することで、所沢市の農業全体を活性化させ、この土地は農業をする人にとって魅力ある場所だというのを知ってもらいたいですね」。
この新たな目標の達成のため、佐藤さんの躍進はこれからも続いていきます。
ゴボウの生育状況の確認。これからの出荷に向けて確認は念入りに。