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師走に向かうそれぞれの農業

冬至、クリスマス、正月・・・師走は様々な行事が需要を呼ぶ季節。
農作物も年末年始に向かって需要のピークを迎えるものがたくさんあります。
それぞれの農業、今年の準備はいかがでしょうか。


所沢市下富
北田 喜久江さん
(54歳)

北田喜久江さん

10月下旬、イチゴの生長を確かめながら、被覆作業に励む喜久江さん。ハウス内の気温は25℃を超え、 汗ばむ中での作業となりました。

北田 喜久江さん

元気にハウス内を飛び回り、受粉作業を担ってくれるミツバチ。1つのハウスに8,000匹ほど放すそうです。

収穫に向けて夏から準備を始めました

秋晴れの10月下旬、14棟ある北田農園のイチゴハウスを訪れると、ハウス内ではパートさんと一緒に被覆作業を進めている園主の北田喜久江さんの姿がありました。
被覆とは栽培するイチゴベッドの両サイドをビニールで覆い、冬の寒さから株を守るために行います。
今年のイチゴを作るための準備は既に夏から始まっていました。8月には透明マルチで土を覆い太陽熱消毒で土壌殺菌、殺虫を行い、9月末から章姫、紅ほっぺ、かおりのなど5品種約26,000株の苗を10日間ほどかけ定植しました。
喜久江さんは良いイチゴを作るコツを「自分の子どもを育てるのと同じ愛情を注ぐこと」と話します。

北田 喜久江さん

イチゴ園入口の可愛らしい手作り看板。今年も大勢の来園者が訪れてくれることを楽しみにしているそうです。

12月からの収穫とイチゴ園オープンに向けて

イチゴは冷涼な気候を好み、暑さと乾燥に弱いので、ハウスごとに温度や湿度、二酸化炭素などの数値を複合型環境制御装置で管理しています。
喜久江さんはハウス内を見回りながら、「今のところ順調に育っている。品種に合ったイチゴの味を引き出し、多くの来園者に『美味しい』と言ってもらえるように準備を整えていきたい」と笑顔を見せます。咲き始めたイチゴの花から果実が肥大・着色し収穫できるのは12月中旬の予定です。
イチゴは5月までがシーズン。収穫や開園準備で喜久江さんは忙しい師走を迎えます。


毛呂山町阿諏訪
大野 謙一さん
(57歳)

大野 謙一さん

今年は裏年で例年より少ない収穫量となりますが、それでもミカンは6トン、ユズは5トンの収穫量を見込んでいます。

大野 謙一さん

ミカンの出来の良さに思わず笑みがこぼれます。これから選果機で選別し、翌朝、直売所に出荷します。

山間地域ならではの冬の風物詩

町の中心部から車を15分ほど走らせると、山の南側斜面には収穫期を迎えたミカンとユズ畑が出迎えてくれます。
西日が傾いた畑でミカンの収穫作業に精を出すのは大野柑橘園の園主、大野謙一さん。代々続くユズ農家ですが、先代が30年前から定植したミカンの木が、今ではユズと並んで収穫の過半を占めるようになりました。
ミカンは果実の糖度を高めるために、6月から7月にかけ葉面にカルシウム入りの液肥を散布します。一方、ユズの肥効は地温が12℃以下になると悪くなるため、11月上旬には肥料散布を終えます。こうして迎える収穫期。ミカンは10月から、ユズは11月中旬からそのピークを迎えます。

大野 謙一さん

出荷する直売組合の副組合長も務めており、出荷時に店長と細かな打ち合わせも行います。

秘密兵器の選果機。サイズごとに分けられるので、作業時間が大幅に短縮されます。

自分の育てたミカンとユズで季節を感じてくれたら幸せ

表面の色合いを見て、ハサミで果実を傷つけないよう手際よく収穫していく謙一さん。収穫を終えたミカンは次々とコンテナに入れられ、自宅脇の作業場でサイズごとに選別されます。翌日にはJA毛呂山農産物直売所に出荷するため、ミカンとユズの収穫がピークを迎える11月下旬以降は、作業場での出荷準備が深夜まで及ぶこともあると言います。
これからの季節は体力的にもキツいそうですが、「大野柑橘園のミカンは程よい酸味が特徴。香り高い毛呂山ユズとともに、これからの師走を堪能してほしい」と笑顔で話します。謙一さんの表情から今年のミカンとユズの出来栄えに手応えを感じることが出来ました。


狭山市北入曽
榎本 浩さん
(53歳)

榎本 浩さん

リングを使った葉組み作業。約3,000鉢をひとつひとつ手作業で丁寧に。

榎本 浩さん

「葉数が多く、大きさも揃ったシクラメンが理想」と話す浩さん。飽くなき探求はこれからも続きます

出荷前。葉組みで大忙し!

10月下旬の昼下がり。シクラメンと寡黙に向き合う園芸農家がいます。「えのもと花園」を営む榎本浩さん。
11月下旬からはじまる販売に向け、この時期は毎日のように葉組みの作業に大忙しです。
葉組みとは株頭頂部の葉を下げ、葉と葉が重ならないように整える作業のこと。リングを使い株の中心部分にスペースを作ることで、日光が株の中心まで当たるようになり、小さなつぼみの生長を促すのです。「葉組みを怠れば、見栄えが悪くなる」と浩さん。栽培工程上、最も重要で繊細な作業です。
そして、花びらが大きくなれば、いよいよ販売開始です。

榎本 浩さん

左手にご注目。ホースを握り、水量と勢いを調整します。絶妙なさじ加減は、まさに熟練の技。

消毒済みのピンセットで枯葉を除きます。デリケートなシクラメンは、繊細な作業を要します。

シクラメン栽培は子どもを育てるように

今年の出来を「暑い夏を乗り越えられたおかげで、良質で長持ちするシクラメンに育っている」と評します。しかし、安堵の表情を見せられるのも、ほんのひと時です。
シクラメンの栽培は、11月下旬に種を蒔きます。その後、生長に合わせ年3回ほど植え替え、翌年の9月から11月に葉組みをし販売…という流れ。つまり、販売と同時に来シーズンに向けた準備がはじまるのです。
「ビニールハウスに入らない日はない。
シクラメンは自分の子どものよう。手を抜いたら、そのまま育つから」と多忙を極める同時作業でも妥協は許しません。
浩さんの努力によって生み出される、美しさと繊細さを兼ね備えたシクラメン。お目にかかれるのは、もうすぐです。


三芳町上富
早川光男さん
(52歳)

早川光男さん

貯蔵庫の室温や湿度は、天候の状況を見ながら風を通し、遮光シートを使って調整します。ここで約1ケ月間、熟成させます。

 
早川光男さん

「一直線の圃場なので、農作業がやり易い」と光男さん。今年の年末年始は「サツマイモリキュール」の販売や、自ら主催する「農泊イベント」の開催などで、例年にない慌しさだとか。

熟成イモを味わって

サツマイモ収穫の最盛期。500メートルもの長さが続く広大な圃場で作業をするのは「早川農園」の7代目、早川光男さん。
収穫は12月中旬まで続きますが、そこでひと段落…というわけにはいきません。
熟成イモの準備です。品種は「姫あやか」「紅はるか」「富金時(とめきんとき)」「紅赤金時(べにあかきんとき)」の4種。
室温は約14℃、湿度80%ほどに保たれた貯蔵庫に、一定期間寝かせることで甘みを引き出します。熟成イモの出荷は年明け3月頃まで。「できるだけ長い期間、サツマイモの味を楽しんでほしい」と笑顔で話します。

早川光男さん

収穫期でも合間を見て、平地林の枝を集めます。落ち葉掃き体験は毎年、150人くらいが参加するとのこと。

美味しいサツマイモは土づくりにあり

「三富(さんとめ)落ち葉野菜研究グループ」の代表を務める光男さん。毎年1月から2月にかけて、落ち葉掃き体験などの活動を行っています。
この落ち葉掃き。実はサツマイモ栽培には欠かせません。集めた落ち葉を2年近く発酵させてから圃場にすき込むことで、サツマイモ栽培に適した軟らかく水はけの良い土壌を作り出します。江戸時代から続くこの農法は「武蔵野の落ち葉堆肥農法」と呼ばれ、日本農業遺産に認定されました。「若い後継者と切磋琢磨しながら、地域農業を活気付けたい」と話す光男さんは、伝統を守り伝えていく役割も担っています。
落ち葉掃きの準備は年明けから。平地林に落ちている枝を集め下草を刈り、落ち葉を掃きやすい状態にします。「美味しいサツマイモは土づくりにあり」とひと言。その表情から、年末年始の準備は万端のようです。